「イワシの寿司、明日あるで」とひと声かければ、通りかかった近所の人が「待ってました」と満面の笑顔。モトオカの数ある手づくり惣菜のなかでも100匹単位を一つひとつ丁寧にさばいてつくるイワシの寿司はとくに評判の逸品です。鮮度抜群のイワシをはじめとする良品を安く大量に入荷できるのは、小売店に長年勤めて独立した本岡文生さんだからこそ。

明石青果商業協同組合理事を務めて「明石市産業功労賞」を受賞するほどの豊富な人脈と、この道60余年の経験から「この時期にはこの産地」とカンが働き、しかも必ず手にとって目利きしています。

腕をふるう奥さんの美代子さんいわく「うちのは家庭の味。スーパーみたいな見た目やないけど、煮物やったら炊いて、さまして、また火を入れてるから味がしみて、おいしいやろ?」。手間ひまかけた「おふくろの味」が1パック200～300円。JR魚住駅前での移動販売には「おっちゃんとこのおかず、おいしい」と、リピーターが駆けつけます。祭や行事に大量注文が入るのは巻き寿司、いなり寿司。「あんまりぎょうさん頼まれたら、かなんねんけど～」と、ご夫婦そろってニコニコ顔です。

おふたりが大切にしているのは、採算よりも気持ち。「買いにいくのはたいへん」「自分のぶんだけつくるのはおっくう」という一人暮らしのお得意さんには配達も。リンゴやサツマイモといった旬の生鮮品、手づくりの惣菜、味噌汁までタッパーに入れて届けます。普段からの得意先には小ぶりのおせちを予約販売。「お孫さん世代にも満足してもらいたいから、唐揚げ、とんかつ、焼き豚なども詰め合わせる」などと食卓の雰囲気づくりも行き届いています。

20代で結婚して半世紀。夫婦も商売も、長続きの秘訣は「もちつ、もたれつ」。巻き寿司のパック詰めを3歳の頃から手伝ってくれているお孫さんも、そろそろ強力な味方になってくれるかもしれません。

2019年3月現在